パーセンタイル発育曲線(成長曲線)とは
2006年に(公財)日本学校保健会より発行された「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」のp39~p42に掲載された内容をご紹介いたします。
「児童生徒等の健康診断マニュアル平成27年度改訂」についてはこちら
(学校保健ポータルサイトへリンクします)
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栄養状態の検査は栄養不良や肥満・やせ傾向の発見のほか皮膚の状態、貧血の有無等にも留意して行う必要がある。
方法:皮膚の色や光沢、貧血の有無、皮下脂肪厚、筋肉や骨格の発達の程度等については視診あるいは触診により検査する。皮膚について多数の部位に新旧さまざまな外傷や火傷の痕跡などがあった場合は子どもの虐待を心にとめて対応しなければならない。
また、肥満およびやせ傾向など栄養状態の評価のためのスクリーニング(選別)として、身長と体重の発育曲線、性別年齢別身長別標準体重などを用いる。具体的には、身長や体重の発育曲線が基準線と比較して上向き、あるいは下向きといった異常パターンを示した場合などに注意する。栄養状態についての最終的な評価は学校医が総合的に判断して行うものとする。
乳幼児の身体発育値が10年ごとに調査されていて平成12年(西暦2000年)度が最も新しいので、ここにあげた学校保健関係の資料もそれを参照している。
平成18年度から身長と体重のパーセンタイル値成長曲線を用いて「肥満」や「やせ」といった栄養状態の評価を行うことにした理由は、個々の子どもについて身長と体重の成長曲線を描くことにより、①個々の子ども特有の発育特性を評価することができる、②「肥満」や「やせ」といった栄養状態の変化、それに加えて低身長、高身長、特に性早熟症といって一時的に身長の伸びがよく、子ども本人や保護者も急速に伸びる身長のことをよろこんでいると、早期に身長の伸びが止って、最終的には極端な低身長になるといった病気を早期に見つけることができる、③身長と体重の成長曲線パターンの変化は目でみて分かるので、子ども及び保護者がその変化の様子を容易に理解することができる、④パーセンタイル値は先に説明したように、その数字の意味が子ども及び保護者に分かりやすい、⑤同性、同年齢の体重の度数分布は正規分布しないで重い方に裾の広がりを示す分布をするので、統計学的には平均値と標準偏差で扱うよりもパーセンタイル値で扱う方が合理的である。⑤についてさらに詳しく説明すると、最近のように成人、子どもを問わず国民全体が肥満に傾きやすい状態では、同性、同年齢の体重平均値が実態よりも重い方向に引きずられてしまうことになるので、同性、同年齢の体重の実態をより正確に捉えるにはパーセンタイル値で表わすのがよいといえる。このような事情から厚生労働省と文部科学省の協力を得て作成したのが、図3(40頁)に示したパーセンタイル値を用いた身長と体重の発育曲線作成基準図である。
この発育曲線作成基準図の詳細については次の文献を参照する。『加藤則子、他:「0歳から18歳までの身体発育基準について--「食を通じた子どもの健全育成のあり方に関する検討会」報告書より--。小児保健研究、63:345-348、2004。』
図の中の上にある7本の曲線が身長の発育曲線基準線で、下の7本の曲線が体重の基準線になる。この7本の基準線は上から97、90、75、50、25、10、3パーセンタイル曲線という。
97パーセンタイル値は同じ年齢の子ども100人を身長もしくは体重の低い方から高い方に並べた場合、低い方から高い方に数えて97番目、3パーセンタイルは低い方から高い方に数えて3番目にあたる身長または体重を意味している。
身長と体重の測定間隔は3ヶ月から4ヶ月ごとで充分である。測定時点での年月齢を何歳何ヶ月まで計算する。図の横軸の年月齢に当たるところからまっすぐ上に線を延ばし、縦と横の線が交わるところに点を打ち、点と点を線で結んだものが身長と体重の発育曲線である。
図2 身長と体重の発育曲線作成基準図
平成12年乳幼児身体発育調査報告書(厚生労働省)
および平成12年度学校保健統計調査報告書(文部科学省)の源データをもとに作成
作図:加藤 則子、村田 光範
基準線と基準線の間をチャンネルといい、身長あるいは体重の発育曲線がこのチャンネルを横切って上向きあるいは下向きになった場合に異常と判断する(図3、4参照)。図3に示すものは、単純性肥満の身長と体重の発育曲線である。6歳を過ぎる頃から身長の発育曲線はやや上向きを示しているが、正常パターンであるのに対して、体重の発育曲線はチャンネルを横切って上向きになる異常パターンを示している。このような体重の発育曲線が上向きの異常パターンを示し始めた段階で、近い将来肥満になることを予測して対応することが必要である。なお、低身長あるいは身長の伸びの悪化を伴う肥満は病気が原因である肥満の可能性が高い。
図3に示すものは単純性肥満(男)、図4に示すものは思春期やせ症(女)の身長と体重の発育曲線である。思春期やせ症の場合は測定時の体重が過去の体重を下回った時点で、十分な注意を払い、その後1ヶ月に一度は体重を測定して、3ヶ月にわたって測定時の体重が過去の体重を下回るようであれば、本人と保護者とにこのことを話して、早期に専門的な対応をすることが必要である。ここで示したものは思春期やせ症であるが、測定時の体重が過去の体重を下回ることが3ヶ月以上にもわたって続くことは、思春期やせ症ばかりではなく、他にも何か重大な心身の異常が根底にあると考えなくてはならない。したがって図4のように体重が-20%も減少する前のもっと早い時期に対応することが必要である。
子どもの身長と体重の発育曲線を描くことによって、肥満、あるいはやせといった栄養状態の評価ばかりでなく、ほとんどの発育の異常を早期にみつけることができる。なお、低身長あるいは身長の伸びの悪化を伴う肥満は病気が原因である肥満の可能性が高い。
図3 単純性肥満の発育曲線(男)
図4 思春期やせ症の発育曲線(女)
下記の式から肥満度(過体重度)を計算して、これが+20%以上であれば肥満傾向、-20%以下であればやせ傾向とする。具体的には、肥満の場合は、肥満度(過体重度)が+20%以上30%未満を軽度、+30%以上50%未満を中等度、+50%以上を高度の肥満と判定する。やせの場合は、肥満度(過体重度)が-20%以下をやせとし、特に-30%以下は高度のやせと判定する。
なお、性別、身長別標準体重の計算式は、平成14年度厚生労働省厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業、小児の栄養・運動・休養からみた健康度指標とQOLに関する研究、分担研究:身体活動からみた健康度指標とQOLに関する研究(村田光範、伊藤けい子:学齢期小児の適正体格について)に基づくものである。今後の健康診断における肥満及びやせ傾向の判定は、この方法で行う。 |
これまでは文部科学省の学校保健統計調査報告書に記載してある性別、年齢別平均体重を用いて肥満度を計算するとされていたが、これについて、①何年度の資料を用いるか明確になっていない、②性別、年齢別平均体重が、身長1cm刻みで記載されているが、実測身長(cm)の小数点(mm)について切り上げ、切り捨て、四捨五入など、その処理が明確になっていない、③性別、年齢別、身長別の平均体重の標準化と平滑化が行われていない、④同性、同年齢群で高身長になるほど生理的に早熟群が含まれている可能性があり、低身長になるほど生理的に晩熟群が含まれている可能性がある、⑤今後さらに肥満傾向児や痩身傾向児に対する個別指導が重要になるとき、これらの判定基準が一定でないことは大きな問題であることなどを考慮して、表にあげた係数と計算式を用いて、性別、年齢別標準体重を算出することとした。
平成12年度の資料を用いた理由はすでに述べたが、戦後からみられている子どもの体位の向上傾向が頭打ちになっている状況と今後さらに肥満傾向児と痩身傾向児が増加することが原因で基準値が変動すると予想されることから、当分の間、この平成12年(西暦2000年)値を日本人小児の体位の基準とする。
成長期の子どもに関するBMI(kg/m2)は年齢や身長によって基準値が大きく異なり、たとえば、肥満の度合いなどに変化がなくても年齢が進むにつれてBMIは次第に大きな値になるので、個々の子どもの栄養状態を追跡して評価するには不適当である。ローレル指数もBMIと全く同様の問題があることに注意する必要がある。
表1 身長別標準体重を求める係数と計算式 * |
年齢 | 男子 | 年齢 | 女子 | ||
係数 | a | b | 係数 | a | b |
5 | 0.386 | 23.699 | 5 | 0.377 | 22.750 |
6 | 0.461 | 32.382 | 6 | 0.458 | 32.079 |
7 | 0.513 | 38.878 | 7 | 0.508 | 38.367 |
8 | 0.592 | 48.804 | 8 | 0.561 | 45.006 |
9 | 0.687 | 61.390 | 9 | 0.652 | 56.992 |
10 | 0.752 | 70.461 | 10 | 0.730 | 68.091 |
11 | 0.782 | 75.106 | 11 | 0.803 | 78.846 |
12 | 0.783 | 75.642 | 12 | 0.796 | 76.934 |
13 | 0.815 | 81.348 | 13 | 0.655 | 54.234 |
14 | 0.832 | 83.695 | 14 | 0.594 | 43.264 |
15 | 0.766 | 70.989 | 15 | 0.560 | 37.002 |
16 | 0.656 | 51.822 | 16 | 0.578 | 39.057 |
17 | 0.672 | 53.642 | 17 | 0.598 | 42.339 |
* 身長別標準体重= a × 実測身長(cm) - b |
皮下脂肪厚の測定方法の標準化と学齢期の標準値が定まっていないので、現実的にはこの方法を用いることはできない。
貧血の有無は、全身を視診あるいは触診することにより行う。具体的には、顔面、四肢、体幹の皮膚色(蒼白かどうか、時に黄色がかってみえることもある)、眼瞼結膜や口腔粘膜の色調(赤みが乏しいかどうか)、心雑音(駆出性雑音の有無)、頚部血管雑音などである。また、問診により「疲れやすい」、「少し動いただけで息が切れる」等の症状についても確認し、参考とする。なお、貧血の正確な診断は血液検査によりなされるので、健康診断における上記の方法により少しでも貧血が疑われる場合には、医療機関への受診を勧める。